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永田央(助教授) 分子研リポート2002 | 分子科学研究所

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Academic year: 2018

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(1)

180 研究系及び研究施設の現状

ナノ触媒・生命分子素子研究部門

永 田   央(助教授)

A -1)専門領域:有機化学、錯体化学

A -2)研究課題:

a) 光励起電子移動を利用した触媒反応の開発

b) 金属錯体およびポルフィリンを用いた光合成モデル化合物の合成 c) 大型有機分子を用いたナノ反応場の設計と制御

A -3)研究活動の概略と主な成果

a) ポルフィリンの光励起電子移動を利用したアルコールの酸化反応系について,反応機構を詳細に調べた。ベンジル アルコール,T E MPO(2,2,6,6-tetramethyl-1-piperidinyloxy),2,5- ジ -t- ブチル -1,4- ベンゾキノンのピリジン溶液に触媒 量のポルフィリンを加えて可視光照射すると,ベンズアルデヒドが生成する。T E MPOは反応に必須であり,T E MPO が一電子酸化されたオキソアンモニウムカチオンが反応活性種であることを示唆している。このことは,さまざま な基質に対する反応性のパターンからも裏付けられた。反応初期速度は基質濃度に依存し,オキソアンモニウムと 基質の反応が律速段階に関わっていることがわかる。一方,キノンの濃度を変化させたところ,興味深いことにキノ ンの濃度増大とともに初速度が減少することがわかった。この奇妙な挙動は,ポルフィリンの励起三重項から反応 が進行していると考えると理解できる。すなわち,キノンの濃度が高くなると,励起一重項のキノンによる直接消光 のために,励起三重項の収率が低くなる。励起三重項状態の量子収率のキノン濃度依存性は S tern-V olmer プロット の結果から見積もることができ,初速度のキノン濃度依存性と一致する傾向を示した。また,これとは別にT E MPO 濃度に対する初速度の依存性を調べたところ,比較的低い濃度領域で初速度対濃度の傾きが減少しはじめ,25 mol% 付近で飽和する傾向が見られた。T E MPOが反応活性種の前駆体であることを考えるとこの結果もまた奇妙である が,T E MPOは芳香族分子の励起三重項状態をエネルギー移動で失活させることが知られており,三重項経由の反応 を仮定することでこの現象も矛盾なく説明できる。これらの結果を元にして,予想される反応機構を図式化した。 ところで,本反応の量子収率は0.1%であり,実用化するにはあまりにも低い。提案した反応機構では,光励起を受けた後に

生成物に至らずに失活してしまう非生産的経路が少なくとも4種類存在しており,これらの経路を抑制することで原理的には 反応効率を上げることができる。しかしながら,これらの経路はいずれも反応に不可欠な要素(キノンやT E MPO)が起こす副 反応であり,反応条件を多少調整する程度では大きな改善は見込めない。それぞれの非生産的経路を選択的に阻害する ための特別な分子設計が必要であると考えられる。

c) 光反応を制御するための反応場構築への一段階として,金属ナノ粒子・有機分子複合体の合成に取り組んだ。3-アセ チルチオ-1-プロピルオキシ基を有するベンゼン環をチオエーテル結合で9個または15個結合した三脚型分子を合 成し,これを用いて金とパラジウムのナノ粒子の安定化を試みた。適切な条件を選択することで有機溶媒中で安定 なコロイド溶液を調製でき,2–4 nmの粒子が電子顕微鏡により確認できた。同じ条件で三脚型分子を除いて調製す ると不溶性の沈澱(単体金属と思われる)が生成することから,ナノ粒子の安定化に三脚型分子が寄与していること が示された。

(2)

研究系及び研究施設の現状 181 B -1) 学術論文

T. NAGATA and K. TANAKA, “Syntheses of a 6-(2-Pyrrolyl)-2,2’-bipyridine Derivative and Its Ruthenium Complex,” Bull. Chem. Soc. Jpn. 75, 2469–2470 (2002).

C ) 研究活動の課題と展望

着任以来人工光合成系の研究を進めており,本年度は1つの光酸化反応についてほぼ全貌を明らかにした。同時に,今後 この反応を光物質変換系に展開していくにあたって,解決すべき問題点も数多く明らかになった。いくつかの問題点を解決 する分子設計のアイデアを現在暖めている。来年度はこのアイデアに基づいていくつかの新しい分子を合成して検証を行 う予定である。

もう1つ来年度に実現すべきものは,T E MPO酸化反応との同時進行が可能な還元反応の開発である。これが実現できれば, 光エネルギーを用いてアルコールの酸化と別の還元反応を同時に進行させ,犠牲基質を用いない光物質変換が可能とな る。本グループで以前開発した光還元反応は,残念ながらT E MPO還元反応との組み合わせに適さないことが明らかとなっ た(未発表)。これまでにも還元反応のスクリーニングは行ってきたが,光酸化反応の詳細が明らかになったことを踏まえて, 別の視点から新たな反応探索に取り組もうと考えている。

(c)は本年度から本格的に取り組んでいる課題で,現在はまだナノ粒子の合成と同定に苦労している段階である。課題の欄 に「ナノ反応場」と記述した通り,これらの粒子には酸化還元反応の場としての機能を期待している。遅くとも来年度の後半 には,これらのナノ粒子を用いた電子移動化学に本格的に参入したいと考えている。上に示した通り現時点では還元反応 の開発が急務であるため,ナノ粒子に電子をため込み還元反応を駆動する,という方向で研究を進める。

参照

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